統合諸表 | 財務諸表だけでは見えない、企業の価値を可視化する

CHALLENGE

PROJECT

統合諸表

財務諸表だけでは見えない、
企業の価値を可視化する

「いい会社」の定義とは、なんだろう?企業の持続的発展が求められる時代に、企業を評価する指標が経済的指標だけでいいのだろうか。ウェルビーイングな社会の実現に向けて、財務諸表だけでは読み解けない企業価値を可視化するために生まれた新しいフォーマットが「統合諸表」だ。事業・社員・環境・社会の4つの象限から企業を測る「統合諸表」をつくったのは、日本経済新聞社を中心とする企業19社とアカデミアが手を組んだ「Well-being Initiative(ウェルビーイングイニシアチブ)」。その事務局としてプロジェクトをプロデュースした藤井、村山に話を聞いた。

「いい会社」の定義を変え、
ウェルビーイングな世の中を目指す。

INTERVIEW

  • 藤井 統吾
    藤井 統吾
    MEDIA
  • 村山 二朗
    村山 二朗
    CREATIVE
INTERVIEW /01

日本発のルールメイキングに挑む

━━ プロジェクトのきっかけについて教えてください。

藤井藤井

プロジェクトのきっかけは、2020年の、New School(※)という社内研修でした。僕はふだん、メディアの部署で仕事をしているのですが、この研修では、社内のさまざまな部署の人とチームを組んで、課題にチャレンジするんです。
※領域を超越した、高い視座をもつディレクター人材を育成する研修制度

そこでPRソリューション局の佐々木さんという方と知り合い、予防医学研究者の石川善樹先生から、ある依頼を受けていると相談を受けました。石川先生は「人がよく生きる(Good Life)とは何か」をテーマに研究を行っている方で、ウェルビーイングを測定できる手法を確立したい、ひいては、日本発のグローバルなアジェンダにしたいと考えていました。しかし、多くの企業を巻き込んで実現していくときのプロデュースに悩んでいるので、電通にお願いできないかと。

村山村山

石川先生と佐々木さんは、ウェルビーイング関連の業務を通して、もともと知り合いだったんだよね。

藤井藤井

はい、そこで当時、わたしが日本経済新聞社を担当しており、「改めて日経というメディアを巻き込んでいくとうまくいきそうだな」と思い、構想を自主提案することになりました。

━━ 社内外、人とのつながりでシナジーが起こって、プロジェクトが始動したのですね。構想は、どんなことから着手されたのでしょうか。

藤井藤井

まず、ウェルビーイングの視点を組み込んだ主観的指標「GDW(Gross Domestic Well-being:国内総充実)」を開発し、社会における新しい豊かさの指標として位置付けることを目指しました。今の時代、会社を評価するものさしが経済的指標だけでいいわけがないですよね?西洋的な「頂上」を目指すだけではなく、日本的な「調和」を目指す価値観もあるのでは、と石川さんと対話を重ねていきました。

村山村山

今、社会で叫ばれているSDGsという指標って、海外でつくられた型の押し付けに感じる部分がある。だからこそ、SDGsのその先を、未来を見据えたグローバルなアジェンダを、日本発でつくるべきだという声が企業やアカデミアからありました。

藤井藤井

そこから、ウェルビーイングを経営に取り入れたいと賛同する企業を募り、物質的豊かさだけでなく、人々のウェルビーイング(実感としての豊かさ)が評価される世の中をつくることを目標とした企業コンソーシアム「Well-being Initiative(ウェルビーイングイニシアチブ)」の発足へとつながりました。

INTERVIEW /02

あたらしいものさしで、経営をサポート

━━ 事業・社員・環境・社会の4つの象限で企業を測る「統合諸表」のアイデアはどんな経緯で生まれたのですか。

藤井藤井

Well-being Initiative参画企業が一堂に会し、ウェルビーイングの観点からお互いの企業についてディスカッションをする、経営者会議の機会を設けたことがありました。すると、サステナビリティ経営とか、ウェルビーイング経営とか、用いるワードがバラバラであったり、取り組みの説明がそれぞれユニークであるものの全体を俯瞰(ふかん)するような一枚絵がない、つまりは経営の共通言語がないことに気づいたんです。どの企業も使えるような、まとまった経営の設計図が必要かもしれないと感じたことをきっかけに、村山さんをはじめとするクリエイティブチームにサポートを依頼して開発したのが「統合諸表」です。

村山村山

「統合諸表」が完成したあと、これを使ったワークショップを開催しました。すると、統合的な視点から企業価値を可視化され、今までにない捉え方で自社の理解を深めることができ、有意義だったと、参加者たちからの反応が良かったんです。だから、これはハニカムモデル(※ブランドの構成要素をハニカム〔蜂の巣〕のような商品やサービスの価値の総体として可視化した電通発祥のフレームワーク)のようになるべきだと感じて、あらゆる企業に無料で公開しようと考えたんです。

藤井藤井

2021年3月、正式に「Well-being Initiative」が発足し、ちょうど1年後の2022年3月に統合諸表をウェブ上で無料公開しました。日経のシンポジウムに登壇させていただいたり、その内容が記事になったこともあって、反響が大きかったです。

━━ せっかく開発したものを無料提供することに、ビジネスとして問題はありませんでしたか?

村山村山

この統合諸表はあくまでもきっかけにすぎず、この表を用いて会社に存在するさまざまな課題を議論することがポイントです。統合諸表ソリューションへのお問い合わせ自体は40以上の企業からいただいており、現在はさまざまな形で実現に向かっています。今回の無料公開で、企業の未来を真剣に考える方々が新しい企業価値を考えるきっかけを生み出せているならば、うれしく思います。

INTERVIEW /03

経営者をつないでビジネスを生む、メディアの新しいチャレンジ

━━ 「Well-being Initiative」では、普段どんな活動をされているのですか。

藤井藤井

アカデミアと企業をつないで、ウェルビーイングに関するナレッジをインプットしたり、統合諸表を使って実際にどんな活動をすればいいか考えるというワークショップを、定期的に開催したりしています。経営者たちはみんな「いい会社・いい社会をつくりたい」と願っているんですね。でも気軽に相談できる環境が今まではなかった。だから、経営者同士の横のつながりをつくる機会を創出することが求められていました。それぞれの経営者が登壇して自社の話をする。それをみんなでフラットにディスカッションする時間も設けています。

━━ 電通はどのように関わっているのでしょう。

藤井藤井

電通はプランニング・プロデュースパートナーとして、毎回の運営をコーディネートしています。他にも、いざ何か施策を打ち出したいという時に相談に乗ったり、世界のウェルビーイングアクション事例のインプットをお手伝いしたりしています。

━━ 事務局の運営は、電通と日本経済新聞社の2社になっています。どのように運営されているのでしょうか?

村山村山

日本経済新聞社というメディアパートナーがいることで、企業にもアカデミアにもメリットが生まれています。例えば、ウェルビーイングというまだ知られていない概念を日経が定期的に情報発信してくれる。さらに、日経はメディアという立ち位置からさまざまな研究者とつながっているので、企業は国内外のアカデミアとネットワークを広げることができますし、さまざまなナレッジをインプットしてもらうことができます。電通も、企業の施策を発信する際のパートナーとして、日本経済新聞社と一緒に動けるというわけです。

藤井藤井

新聞社の広告ビジネスは、メディアとして「枠を売る」というモデルでした。しかし、クライアントニーズが大きく変化をするなかで、変わらない本質的な価値を新聞社と一緒に捉えなおし、対応していったことは今後のメディアビジネスを考えるなかでも重要な視点だと思います。

  • 3か月に1度開催される参画企業の経営陣によるディスカッションの一場面

  • 経営陣とは手元に宣言広告を置きながらディスカッションを重ねる

INTERVIEW /04

豊かな社会づくりのために、何ができるか

━━ 当初の目的であった、日本社会へのウェルビーイング普及の現状は。

藤井藤井

統合諸表の公開や「Well-being Initiative」の活動など、GDWの普及に取り組んだ結果、2021年、国の成長戦略に「一人一人の国民が結果的にWell-beingを実感できる社会の実現を目指す」と明記されるまでに至りました。また、2020年と比較すると2022年の企業の開示情報(有価証券報告書・四半期報告書)」で「ウェルビーイング」が取り上げられた量は約10倍へと増加しています。

村山村山

アカデミアでは、2021年はウェルビーイング元年だといわれているそうです。また、非財務指標・人的資本など経営におけるキーワードが変化してきているため、ウェルビーイングの視点は今後より重要になると思います。

━━ 統合諸表の現状と、展望についても教えてください。

村山村山

持続的な企業価値・コーポレートブランドの向上はとても重要なことです。その上で、各社がどのステークホルダーに対してウェルビーイングなアクションを起こしたいのか、根幹を深く話し合い、さまざまな施策を積み上げていくことが重要だと考えています。コロナ禍による業態変化など多くの背景を理解しながら、未来の企業の形はどうあるべきか、その指針からつくることもあります。
事業と向き合うだけでなく、広報・PRやスポーツ協賛にも同様の考え方をインストールできると思っています。例えば、企業の広報活動はこれから「統合広報」として、企業価値を上げるために必要とされるものとなり、社員・環境・社会の視点で統合的に行う考え方に変えていくこともできるでしょう。企業全体を俯瞰して、発信するべきファクトに優先順位をつけて展開できることが、統合的な企業コミュニケーション策定に必要となるはずです。パーパスといわれる企業の存在意義がしっかりと定まると、あらゆるクリエイティブ施策に対する評価軸も変わっていくと思いますので、よりその企業ならではの施策が今後ますます増えていくと思います。

━━ 仕事の広がり方にワクワクしてきました。

藤井藤井

既存のメディアを売るだけではなく、事務局の運営、ソリューション開発まで広がっていますからね。今まで関係をつくってきた日本経済新聞社をはじめ、さまざまなクライアントとパートナーになることで、あたらしいビジネスが生まれてくるのではないかと思っています。

村山村山

だんだん自分が何屋かわからなくなってくるのですが(笑)よりよい社会を築くために、あらゆる可能性を模索できることが面白いです。

━━ 石川さんからのコメント

SDGsは「No one will be left behind(誰一人取り残さない)」を掲げていますが、基本的には「save the life, save the earth(命を守り、地球を守る)」といえる概念です。ダメージを減らすことに主眼が置かれているともいえます。
しかし、「マイナスを減らす」ことと「プラスを増やす」ことは全然違う営みです。2030年にSDGsが終わります。「ポストSDGs」を座して待つのではなく、次なるテーマとして「SWGs(Sustainable Well-being Goals)」を掲げ、「正の遺産」を作っていきたいと思っています。

電通のチームには、「Well-being」をグローバルアジェンダにするために、クリエイティブ・未来構想・プロデュース力をフルに発揮してもらえたらと期待しています!

石川 善樹 氏
公益財団法人Well-being for Planet Earth 代表理事
予防医学研究者、博士(医学)。1981年、広島県生まれ。東京大学医学部健康科学科卒業、ハーバード大学公衆衛生大学院修了後、自治医科大学で博士(医学)取得。Well-being for Planet Earth代表理事。「人がよく生きる(Good Life)とは何か」をテーマとして、企業や大学と学際的研究を行う。専門分野は、予防医学、行動科学、計算創造学、概念進化論など。

  • 経営・社会・アクションの3つの観点から企業価値の持続的向上を目指す