青森県ブランディングプロジェクト | 「好き」でつながる、垣根を越えたチームのあり方

CHALLENGE

PROJECT

青森県ブランディングプロジェクト

「好き」でつながる、垣根を越えたチームのあり方

地方創生の重要性が高まる時代。少子高齢化、コロナ禍などの逆風が吹くなか、青森県庁がSNSを中心に発信する独自のコンテンツが話題を呼んだ。「#マグロネイル」「#縄文式ビリビリ健康法」「#青森ぽかぽか総選挙」……一見、謎に満ちたコンテンツの裏には青森愛があふれ、やがて青森県全体を盛り上げるブランディング施策に成長した。青森の魅力をもっと知ってもらうために立ち上がった嶋野、布川、冨田、友田を中心メンバーとした「電通東日本×電通」混成チーム。彼らがどのようにチームを構成したのか。どのような想いで地域の課題に向き合ったのか。詳しく話を聞いた。

愛の力で、
青森を元気にしたい。

INTERVIEW

  • 布川 真太郎
    布川 真太郎
    BUSINESS PRODUCE
  • 嶋野 裕介
    嶋野 裕介
    CREATIVE
  • 冨田 孝行
    冨田 孝行
    PR
  • 友田 菜月
    友田 菜月
    ART
INTERVIEW /01

「東京に、青森好きがいるらしい。」

━━ プロジェクトのきっかけを教えてください。

布川布川

青森にはたくさんの魅力があるのに、うまく情報発信できていない。それが、青森県庁の長年の悩みでした。SNSを活用してPRしていたのですが、これもなかなか話題化できない。そこで、SNSのコンサルティングを募集するコンペが開かれ、電通東日本(以下、東日本)にも声がかかったのが始まりでした。

━━ 布川さんは、青森で勤務していらっしゃるんですね。

布川布川

はい。そこから同じ東日本のプランナー冨田くんと、電通のクリエーティブの嶋野さんにお声がけしました。

━━ 東日本と電通は、よく一緒のチームになるんですか?

布川布川

今回を機に、他のお仕事でも会社の垣根なく連携させてもらうようになりましたが、それまではほとんどなかったですね……。僕が嶋野さんに声をかけたのは「電通の東京オフィスに青森好きがいるらしい」と、東日本の社内でうわさになっていたからです(笑)。

嶋野嶋野

以前、社内研修で青森好きをアピールしたことがあって。同じ研修を受けていた東日本の方に「こんなに青森を好きな人がいたんだ!」と知ってもらえたんです。そこからじわじわと広まり、有名になったみたいです。

━━ 嶋野さんは、なんで青森が好きなんですか?

嶋野嶋野

え、好きに理由なんてなくない?

一同:(笑)。

嶋野嶋野

きっかけは、かつて会社の出張で青森に行ったこと。そのとき体験した、ねぶた祭がすごく楽しくて。地元のごはんもめちゃくちゃおいしくて、奈良美智さんの個展も面白くて……最高だったんです。文化も食も体験も、すべてが素晴らしい。青森のことが、一気に好きになりましたね。ちなみに、新婚旅行も青森に行きました。

━━ 他の皆さんも青森好きなんですか?

冨田冨田

実は僕も、仕事ではじめて訪れたことがきっかけで、青森が大好きになったんです。同じ東日本でも、布川さんは青森営業所にいて、僕は東京で勤務しています。だから今回、青森に携われるプロジェクトに呼んでもらえてうれしかったです!

友田友田

私はコンペも終わり、プロジェクト当初のメンバーがそれぞれの事情で入れ替わるタイミングで、嶋野さんにお声がけいただきました。プライベートで青森に旅行した直後だったこともあり、「面白い美術館も多いし、アップルパイがたくさん食べられるし、青森最高!」と思い、参加しました。プロジェクトに参加する前から、一番好きな果物はりんごです。

━━ 青森好きのメンバーで勝ち取ったプロジェクトだったのですね。

布川布川

今回は企画プレゼンというより、クライアントも一緒にみんなで企画していきましょうというSNS運用体制の提案だったので、具体的なコンテンツはそのあとみんなで考えはじめました。

嶋野嶋野

ネタ探しのために、毎月青森へ取材に行きましたね。最初の取材時、宿泊先はホテルかなと思っていたら、民家の2階でした。1階で普通にオーナー家族が生活してて(笑)。夜は、大広間にクライアントふくめて男6人で雑魚寝でしたよね。

━━ クライアントもですか!?

嶋野嶋野

みんな一緒に、です。しかもクーラーがないから、みんな窓際の寝床を希望して……場所を取り合うためにUNOをして、勝った人から窓際を確保してました。

冨田冨田

実際に青森へ行って、魅力をたくさん発見できたことが貴重だったと思います。

INTERVIEW /02

弱点を、魅力に変える。

布川布川

2019年から毎月コツコツとコンテンツを作り、クライアントの信頼を得ていきました。その実績で2020年、コロナ禍での観光ブランディングのご相談がきたんです。

嶋野嶋野

コロナ禍で、観光地としての青森がさらに遠くなってしまったから、全国へ向けて何かメッセージを発信したいと。けれど、いつ収束するかもわからないなか、すぐ遊びに来てとも言えないし……。悩みながら企画しましたね。

  • 2020年10月に全国で新聞広告を掲載

━━ 反響はいかがでしたか?

布川布川

この広告で、「人が少ない」という弱点が、魅力に感じられるようになりました。地元の人々も、かなり驚いていました。ネガティブに思っていたことが、ポジティブに捉えられるようになって、喜んでくださる方も多かったです。

━━ 翌年も新聞広告を作ったとか。

布川布川

2021年は「北海道・北東北の縄文遺跡群」が世界遺産に登録されそうだというタイミングでした。土偶を目当てに、青森へ来てもらえるような広告を出したいと。

嶋野嶋野

土偶について調べると、発掘された土偶のほとんどが、どこか一部が欠けていることがわかったんです。一説によると、それは古いから壊れたのではなく、医療のない時代、けがや病気で苦しんでいる人のために、土偶を身代わりにして治したい部位を破壊することで、平癒を祈っていたそうです。コロナ禍で、健康を一番心配するタイミングだからこそ、現代にその風習を復活させられないかと考えました。ただ、土偶を破壊するわけにはいかないので、新聞に土偶をプリントして、ビリビリ破りましょうという「#縄文式ビリビリ健康法」を企画しました。

  • 『日本経済新聞』に掲載すると、1日で1000件以上のビリビリ投稿が集まった

冨田冨田

その翌年も、まだコロナ禍が続いていました。当時は、県外に旅行すると地元の人々に嫌がられるんじゃないか、と遠慮してしまう人が多かったんです。でも、実際青森の人たちに調査をしたら約89%の人が「観光客を前向きに受け入れたい」と回答されたんです。そんな歓迎の想いを発信するために、県民の方から「おもてなし公約」を集めました。もし青森に来てくれたら、私はこういうおもてなしをします!という公約を、SNSを中心に募集して。それを新聞30段に掲載し「#青森ぽかぽか総選挙」という企画になりました。子どもが「スキーの滑り方を教えます」と言ってくれたり……青森の人たちの前向きで温かい想いが伝わってくる公約ばかりです。

  • 青森県紙で「おもてなし公約」を募集し

  • 集まった画像をもとに全国紙にてみんなの想いを公開した

INTERVIEW /03

理想は、自走できるようになること。

布川布川

このプロジェクトで生まれた企画は、どれも県民にとっては当たり前すぎて気づかなかった視点ばかりで、毎回驚かされました。

嶋野嶋野

外側から青森を見つめると、面白いなと思う魅力がたくさんありました。それをチームみんながそれぞれの得意技で解釈して、企画していましたよね。私だと映像やゲームだし、冨田くんはキャンペーンが得意で、大喜利もできる。友田さんはアートディレクターの視点で、グッズをたくさん作ってくれました。

友田友田

私は学生時代から変わったものを作り、それを写真に撮って作品にするということをやっていまして。自分が作りたいと思うものと、青森県の魅力を掛け合わせて何かできないかを常に考えていました。嶋野さんはいつも「自分がやりたい企画だけ出したらいい」と話してくれて。そのおかげで肩の力を抜いて楽しく企画していました。好きなものを作った方がアウトプットもいいものになるので。

嶋野嶋野

どの企画も、地元の方々の協力が欠かせませんでしたね。

友田友田

実制作においても、自分で最後まで作ることもありますが、現地の方にご協力いただくこともたくさんありました。例えば「土偶クッキー」は、私が家でどれくらいの精度で作れるかを検証した上で、最後は青森の陶芸の窯元さんに作ってもらいましたし、「RINGO BINGO」は、ただビンゴを作るだけでなく、「りんご農家さんたちしかわからないニッチなビンゴを遊ぶほほ笑ましい姿」が必須だと思ったので、実際に何人かでビンゴをしている風景を写真に撮ってもらいました。

大きなバズを作ることができた「りんごの皮マフラー」も、本物のりんご農家の方がうれしそうに雪の前で写っている写真の力が強かったと思っています。演技では作れないリアリティと温かみがありました。強く印象に残っている仕事です。

布川布川

こうしてSNSを長く継続していくうちに、影響された他の地元企業も盛んに情報発信するようになりました。県全体でPRが盛り上がり、結果として、青森県の情報発信力が高まったんです。さらに、クライアントが自発的に企画して、発信までするようになりました。僕たちが関わらなくても、SNS運用できるようになったんです。

嶋野嶋野

SNSって、やっぱり自分たちで発信するのが、一番いいと思うんです。だから、最初はフルでサポートしても、最終的にはクライアントだけでSNSを自走できるようになるといいなと思っていたので、だいぶ理想に近づいてきましたね。

  • りんごの皮マフラー

  • RINGO BINGO

  • 遮光器土偶クッキー

  • 青森ハンガー

  • こけしHair Catalogue

INTERVIEW /04

愛があるものを仕事にしよう。

━━ 東京と青森と、物理的な距離がある状況で、プロジェクトがうまく進められたポイントは何だったのでしょう?

嶋野嶋野

「リモート会議」という手段があったことでしょうか。コロナ禍は大変でしたが、そのおかげで普及したツールによって、逆に離れていても仕事がしやすくなりました。それと、布川さんがチームで唯一「青森の人」としてたくさん情報を提供してくれたからこそ、さまざまな企画ができました。

布川布川

「ただ一人青森にいる身として、頑張らないと!」と思っていたので、よかったです。地元にいると、このプロジェクトで青森全体が元気になった実感があります。そのきっかけになれたのは、青森県民として心からうれしく思っていますし、誇らしいです。

━━ この仕事を通して、改めて気づいたことはありますか?

布川布川

東日本だけの力では絶対にできなかったことだなと思います。電通と東日本、こうして手を組むことで、小さなローカル案件でも、ダイナミックな仕事にできるんだぞ、ということを伝えたいです。このような事例が、もっと他の県でも広まるといいなと願っています。

友田友田

クライアントである青森県庁の皆さんと本当の意味でチームになれたことが、特別な経験でした。東京に住む私たちがどんなに一生懸命調べても、実際に青森で生活をしている人たちが感じる青森の魅力を実感することって難しいと思うのです。リアリティがある「濃度の高い青森汁」みたいなものを、友達からの面白エピソードを聞くくらいの距離感で共有していただけたからこそ、ぎゅっと面白い企画がいくつも出せたと思っています。

嶋野嶋野

愛があるものを仕事にすることが大事だということ。「なんでもやります!」という姿勢も、もちろん素晴らしいのですが「特にこれが好きです!」ということをどんどん発信すると、好きな仕事が集まってくるし、その方がクライアントからも喜ばれます。この仕事を通じて、改めて「好き」を発信することの大切さを強く感じましたね。

冨田冨田

地域には、まだまだポテンシャルがあると思うんです。きっとまだ見つかっていない魅力があるはずだし、魅せ方だって多岐に広がっているはず。それを、もっと面白くできるのが電通なんだと感じています。そして、電通が必要とされていることだって、まだまだあるはずだと思っています。あと最後に……仕事に生かせない「好き」なんて、ないです!