北海道ボールパークプロジェクト | スポーツを起点とした、新しい街づくり

CHALLENGE

PROJECT

北海道ボールパークプロジェクト

スポーツを起点とした、新しい街づくり

野球ファンも、野球ファン以外も、すべての人が楽しめる球場。2023年3月30日に開業した「北海道ボールパークFビレッジ」は、今までにない発想の球場を核としたエリアとして話題を呼んだ。完成までおよそ7年。長期プロジェクトの裏には、「球場をつくる」だけではなく、「世界に誇れるスポーツを起点にした新しい街づくりをしたい」という想いがあった。世界がまだ見ぬボールパークを、どのようにして実現したのか。多数の電通社員が携わっているなか、中心メンバーである倉田、小布施、榊、早川、三宅に話を聞いた。

スポーツを起点とした
新しい街をつくりたい。

INTERVIEW

  • 倉田 亮
    倉田 亮
    SPORTS BUSINESS
  • 小布施 典孝
    小布施 典孝
    CREATIVE
  • 榊 良祐
    榊 良祐
    CREATIVE
  • 早川 香
    早川 香
    SPORTS BUSINESS
  • 三宅 優輝
    三宅 優輝
    ART
INTERVIEW /01

想像がついてしまう未来はつくりたくない。

2004年以来、札幌ドームを本拠地としていたプロ野球球団「北海道日本ハムファイターズ(以下、ファイターズ)」。球団は、自前の球場を保有することで球団経営を効率化するとともに、スポーツを超えた新ビジネスを見据え、日本ハム・ファイターズ・電通による共同出資による新会社、ファイターズ スポーツ&エンターテイメント(以下、FSE)を設立した。

━━ 電通が球場づくりに関わるのは意外です。前例のないプロジェクトは、どのように進んでいったのですか。

倉田倉田

新しい球場づくりに電通として関わりたいという想いはあったものの、実際の事業にどう関わるかは、まったく決まってなかったんです。ざっと考えただけでも、「球場を、どのような空間にしていくか?」「事業者を誘致するにはどうすればいいのか?」「単なる商業施設併設の球場でいいのか?」「行政とどう連携をして、どう道民の支持を得ていけばいいのか?」など、課題が山積みでした。

さらに、プロジェクトを推進していた北海道日本ハムファイターズ前沢取締役(現在はFSE取締役事業統轄本部長も兼任)の「誰も見たことのない球場をつくりたい」「想像がついてしまう未来はつくりたくない」という壮大なビジョンを聞いたとき、プロジェクトのおおもとから関わりたいと思い、私から小布施さんに相談しました。

小布施小布施

僕は、元野球部だったこともあり、野球が大好きでしたし、なにより「世界に誇れる、スポーツを起点にした新しい街づくり」という大きな構想に興味を持ちました。実際に北広島市に足を運んで建設予定地を見に行ったとき、これはとてつもなく大きな仕事になるなと確信しました。この段階から関われるなんてすごい機会だと思ったので、当時僕の部員で「世界を変えるような仕事じゃない限り呼ばないでください」と言っていた榊くんに声をかけてみました(笑)。

榊

じつは、僕は野球にはあまり興味がないんです(笑)。そんな僕でも、実際にあの広大な土地に立ったとき、ここから街づくりに携わることの壮大さに、とてもワクワクしました。逆に、僕みたいな人でも行きたくなるような魅力的な場所を構想していこうと思いましたね。

  • 当時は原野が広がっていた北広島市の建設予定地

小布施小布施

「野球に興味がない人にも、興味を持ってもらいたい!」と思ったときにヒントにしたのが、「ボールパーク文化」でした。野球の本場・アメリカには、家族で球場に出かけて、1日遊んで、たまたまやっている野球の試合を見て帰ってくる、そんなライフスタイルがあります。独自の魅力と可能性を秘めた北海道でしか実現できない、世界でも類を見ないボールパークにできたら、と思いました。

INTERVIEW /02

街づくりは、コミュニケーションデザインになる。

━━ 球場の中身はどうつくっていったのですか。

榊

球場の完成予想図をつくる「建設設計図」を考えてしまうと、どうしても既存の球場と似てしまうので、プロジェクトへの大きな期待をつくる「未来設計図」づくりからはじめました。大きな構想、ワクワクする未来を先につくって、実現性はあとで考える。そんな「ビジョンドリブン型」で進めていきました。

小布施小布施

関わるステークホルダーが、非常に多い壮大なプロジェクト。だからこそみんながワクワクする未来を提示する必要があったんです。

倉田倉田

ファイターズ前沢取締役が提示したビジョンをもとに、みんなで具体的なアイデアに落とし込んでいきました。クライアントも電通も、プロジェクトに関わるみんなでゼロからつくっていくことを大切にしましたね。

榊

最初はワークショップを開き、無邪気にアイデアを出しあいました。「サウナがあったらいいよね」とか。「農場があったらおもしろいんじゃないか」とか。みんなが具体的にイメージできるように、イラストにしていきました。

  • ワークショップでイラスト化されたアイデア。

榊

みんながワクワクできる未来が共有できるようになったところで、「ビジョンブック」という冊子をつくりました。「こういうものをつくりたい」「こういう球場にしたいんだ!」という、夢を描いた資料をつくって、一緒に実現していく企業や仲間を募集しました。まさに、「ビジョンドリブン型」の進め方です。

小布施小布施

こうしたやり方は、例えば、デベロッパー主体の街づくりとは違うかもしれません。でも、ビルや建物などの「ハード」から発想するのではなく、そこを訪れる人にとってどんな街にしたいのかという「ソフト」を先につくる発想もあっていいと思うんです。そこに住む人、そこに来る人のことを考えるのは「コミュニケーションデザイン」を専門にやってきた電通が得意とする領域なので、今後もこうした仕事は増えていく可能性があると思っています。

榊

ファイターズと電通で描いたビジョンをベースにしながら、そのビジョンを共に実現できる設計・施工会社を選定していったんですよね。

  • 完成予想模型(設計・施工コンペ当時)

  • エリア内の地下1300mから湧き出た温泉。いい湯を満喫しながら、野球観戦できます。(写真提供:大林組)

  • ブーム到来前だったサウナを、可能性を信じた関係者の情熱で実現。

  • 天然温泉&サウナ・ホテル・レストランなどが同居する、象徴的な建物「TOWER 11(タワー・イレブン)」

  • ネーミング・ロゴ・サービス開発をお手伝いしたグランピング事業

  • 球場内で醸造したおいしいクラフトビールも楽しめます。ロゴは三宅が制作。

  • 地元の高校生を巻き込んでプロジェクトを盛り上げ。

INTERVIEW /03

みんなを巻き込み、熱量を高める。

━━ 2023年3月30日に開業を迎えるまでのコミュニケーションはどのように進めたのでしょうか?

早川早川

私は電通の社員ですが、プロジェクトを通して設立されたFSEに出向し、広報PR 担当として新球場とFビレッジに関わる事業のコミュニケーションを担当しています。

━━ 広報として意識したことはなんですか?

早川早川

ファイターズはこれまで、野球ファンに向けたプロモーションをしてきました。でも今回は、野球ファンはもちろん、野球に興味がない方々も巻き込んでいく、球場を含めた「ボールパーク」開業のプロモーション。特に、野球ファンではない20~30代女性が気軽に来たくなるような場所にしたいと考えました。華やかでポップで楽しそうなイメージのコミュニケーションをすることで、野球ファン以外の、北海道民の熱量を高めていきたいと思ったんです。

  • ポップでカラフルなビジュアルを意識したキービジュアルを作成。北海道のイラストレーターとタッグを組み、地元からも盛り上げていった。

  • 北海道のプロダクションとタッグを組み、プロジェクトに携わるさまざまな人へのインタビューをもとに、Fビレッジを紹介するマガジンを作成。道内カフェやセレクトショップ、メディアなどへ配布。熱量を高めていった。

  • 首都圏での話題化を狙い、開業日に渋谷のビジョンをダルビッシュ選手でジャック。

早川早川

特に、このプロジェクトで生まれたFビレッジのキャラクター「えふたん」がとても人気で。えふたん自体がひとり歩きして、認知を高めています。

  • 球場付近に貼られた「えふたん」のシール。

  • キャプション:Fビレッジで道内初出店となる都内人気ベーカリーにて、「えふたん」を起用したアンビエント広告を展開。

━━ 「えふたん」生みの親は、三宅さんだそうですね。

三宅三宅

はい。キャラをつくることは、ロゴや広告物をつくっているなかで自然とでてきたアイデアでした。もちろんファイターズにもマスコットとなるキャラはいたんですが、「野球ファン以外」をターゲットにした新しいキャラをつくりませんかと自主提案をしたんです。そこで、ゆるキャラ感のあるキャラクターとして生まれたのが「えふたん」です。あえてラフさ、いい意味での違和感をつくるために、僕がすべて手書きでデザインしています。汎用性高く、いろんな表現ができるキャラになったかなと思います。

  • 現在約100ポーズ超、すべて手書きです。

━━ 表情も絶妙でかわいいですね。

三宅三宅

表情や姿を含め、どこか人っぽい印象にすることで、人に置き換えられながら発話が生まれることを狙いました。実際、「あの選手に似ている」「監督に似てるよね」といった声が出ているようです。

小布施小布施

まず、三宅くんに似てるよね?(笑)

早川早川

ファイターズ内では、三宅くんって呼ばれてます。(笑)

三宅三宅

これまでの野球のキャラらしくないことで、えふたんから新しくファンが入ってきたりしているようです。限定配布のグッズが欲しくてわざわざ遠方から来場してくださる方もいるとか。

  • 野球好きじゃなくても親しみやすいフォルムの「えふたん」。

  • 人気だったので、グッズも多数展開することになりました。

INTERVIEW /04

開業はゴールではなく、はじまり。

━━ 開業後の反響を受けての感想や今後への意気込みなど、教えてください。

三宅三宅

最初はロゴをつくるだけの仕事だと思っていましたが、広告から「えふたん」まで、最終的には5つ以上仕事が増えました(笑)。いろんな人が見てくれたり、売り上げにむすびついたり、やりがいを感じています。

倉田倉田

既存の広告の枠を超え、まさに電通が標榜している「Integrated Growth Partner」としてパートナーと共にプロジェクトを大きくしていく仕事だからこそ、最適なメンバーと最適なソリューションを提供しながら進められたことが醍醐味でした。ここで培った経験を他でも生かしていきたいと思います。

早川早川

出向していることもあり、受発注の関係を超えた「パートナー」としての存在になれているのが新鮮です。仲間として裏表なく関われているのは、厳しいけどすてきな関係だなと思います。開業までは「開業がゴールだ」と思っていましたが、実際は、開業後のほうが大変でした。ここからが勝負だと思うので、責任を持って考え続けていきたいですね。

榊

ふだんは広告の仕事にも関わっていますが、今回のような仕事と比べると、どうしてもスパンが短く、単発的な仕事のスタイルになりがちです。その点、今回は7年がかりの長期プロジェクト。やりがいやロマンを感じます。一瞬の話題を目指すだけではないし、納品して終わりではない。初めて建設予定地の空き地に立ったとき、「ここに満員の観客が入ったら結構グッとくるだろうな」と思いましたけど、やっぱグッときました(笑)。やっぱり僕は、これからも世界を変える仕事がしたいです!

小布施小布施

ここにいないメンバーも、たくさんの人が関わっている仕事です。すべての人に感謝したいですね。規模も、時間も、ダイナミックで、とてもワクワクする仕事を、これからも続けていきたいです。なにより、野球好きとしては最高の仕事でした!!

完成前のビジョンと、実際に完成した球場を比較したムービー。胸熱です。