パーソル「#これ誰にお礼言ったらいいですか」
藤井 統吾
BUSINESS PRODUCE
プロデューサー。趣味は片付け。毎朝買うコーヒーのサイズから、休日子どもと遊ぶ場所まで、日々ルーティーンにのっとって生活している。
佐藤 香織
CREATIVE
クリエイティブディレクター/アートディレクター。人と話すのが好きで、クライアントとセッションを重ねながら企画していく仕事が多い。最近ボルダリングにハマり、上腕二頭筋が発達中。
姉川 伊織
CREATIVE
コピーライター/プランナー。9:30〜17:30の定時で仕事を終えたあとは、5歳になる子どもと過ごす。寝かしつけを終えて、夜な夜なゲームをするのが好き。やっぱりまだXよりTwitterのほうがしっくりくる、SNSの住人。
福島 陽
CREATIVE
コピーライター/プランナー。インタビューから取材記事の作成など、自ら汗をかいて仕事に取り組み、クライアントからも厚い信頼を得る。お祭りが大好き。この夏も一晩中盆踊りをしたり、甲子園で声を枯らしたりとエンジョイ。「夏しすぎちゃいました。」
INTERVIEW /01
犬タビュアー
藤井
パーソルさんは「はたらいて、笑おう。」というグループビジョンを掲げ、“はたらくWell-being”を推進している総合人材サービス企業です。はたらくことを通して、その人自身が幸せや満足感を実感できる社会の実現を目指しているなかで、「勤労感謝の日にシンボリックなアクションができないか」とご相談を受けました。もともとパーソルさんはわれわれがプランニング・プロデュースしている「Well-being Initiative」(主宰:日本経済新聞社・電通)にご参画いただき、ともにWell-beingを推進するパートナーだったこともありました。
佐藤
まずはどんなことを実現したいか、クライアントと一緒に議論を重ねました。そこで「メッセージを発信するだけでなく、受け取った人が何かしらの行動を起こしたくなるようなものにしたい」「ポジティブな印象にしたい」「一過性のものでなく、毎年続けていけるものにしたい」といった施策の方向性が見えてきましたね。
佐藤
「『勤労感謝』って誰から誰への、何の感謝なんだろう?」みたいなことも考えながら、どんな企画がいいかチームで話し合うなかで、姉ちゃん(姉川)が面白いインサイトを見つけてくれたんです。
姉川
子育てをしていると、子ども用の食器があるお店やキッズスペースがある施設などで日々助けられている実感があって。めちゃくちゃ感謝したいタイミングが多いのに、誰にありがとうを言えばいいのか……考えた人もわからないし、届ける手段もないなとぼんやり思っていました。そんな誰かへの感謝をみんなはどうやって届けているんだろう?と考えたとき、SNSに「こういうことがあったけどお礼言えなかったから、届け!」みたいな投稿がいっぱいあることに気づいて。実際に届いてないお礼をたくさん集めて届ける窓口をつくるのはどうかなと。
佐藤
誰もが共感できるし、すでにお礼を言いたい人がSNS上にいるから、多くの人を巻き込める企画になるんじゃないかと思いました。
藤井
その仕事にお礼を言いたい人と、その仕事のお礼が伝わってない人が分断されていて、届けられるべき感謝が届いていない。その分断をSNSでつなげることができれば、自分が誰かの役に立っているという実感を得ることができる。社会全体の“はたらくWell-being”の向上に寄与するアクションでもありますよね。
藤井
この企画をお話しした瞬間に、クライアントの中のおひとりに「そうなんです、最近こんなことが」と食い気味でお話ししてくださった方がいて。その方は最近、家の前の道路に穴が空いて、市に連絡したら早急に工事をしてくれたそうです。何カ月もかかると思っていたので本当にありがたかったのに、感謝の伝え方がわからなかったと。だから「この企画に賛同します!」と力強く後押ししてくださいました。
佐藤
これは熱いエピソードがたくさん集まってきそうだな、と確信しました。そして熱く語る人を見ると、こちらも熱い気持ちになることがわかりましたね。
パーソルの“はたらくWell-being”に関するグローバル調査より。
日本の結果は前年に比べると良化したものの、まだまだ伸びしろがある状況。
INTERVIEW /02
佐藤
主に活用したのは、発話を促す場であるXです。みんなの熱い思いに対して今までになかった受け皿を作ることが目的だったので。一方、プロジェクトへの想いやパーソルが取り組む意義は、新聞広告で提示しました。
姉川
新聞広告のキャッチコピーとしても成立し、SNSでもワークするハッシュタグを何度も検証したり、どう書いたらエピソードを投稿したくなるかという点も意識して原稿を書きましたね。
福島
コピーを書く際、SNS上にすでにある「これ考えた人天才!」「この仕事神!」のような投稿をたくさん集めたのですが、本当にどれもほっこりするエピソードばかりで。こうやってお礼をわざわざ投稿する方もすてきだな、と感じるうちに、SNSって実はそういったひたむきな仕事に光を当てられる場所なんじゃないかと考えました。
姉川
派手な仕事をしている人やアピールがうまい人ばかりが褒められる傾向にあるけど、目立たない仕事でも頑張っている人はいますし。どんな仕事であれ、いい仕事をした人がちゃんと褒められてほしい。そういう社会のほうが、めぐりめぐって普段頑張る自分たちのためにもなるんじゃないかと考えました。
佐藤
「はたらく」というテーマはセンシティブなので企業主語でメッセージを打ち出すときに、共感できる文脈や誰かを置いてけぼりにしない言い方をコピーチームにたくさん検証してもらいました。パーソルが一方的にはたらく人を評価する姿勢に見えないようにすることもかなりこだわっています。SNSを単なるツールとして見るのではなく、ユーザーとしての目線を持ちながら企画したことがとても大事だったと思います。
INTERVIEW /03
福島
ひとつの投稿から、本当に探偵になったつもりで写真が撮影された場所を推理し、メーカーを調べ……と、その仕事をした本人にたどり着くまで、ひたすら電話やメールで問い合わせを繰り返しました。
福島
ご本人の見つけ方なんてノウハウはどこにもないので、ずっと手探りでしたね(笑)。私は普段コピーを書いたり、PRを考えたりという仕事が多いのですが、今回のように誰もやったことがないことを、いろんな人の力を借りながら自分なりに考えて、あの手この手で最後までやりきるというのも、クリエイティビティが発揮されることだと感じました。たしかに大変だったのですが、次はどうすればいいかな、と毎日ずっとワクワク考えていました。
福島
「まさかお礼されると思ってなかったです」と驚いてらっしゃいましたね。みなさんとても謙虚で、仕事に真摯(しんし)に向き合っているすてきな方々でした。マニュアルやノルマにないことを、ご自身なりに考えて実践している方ばかりでしたので、同じはたらく一員としてとても背筋が伸びました。
佐藤
あとみなさん驚きと同時にとても喜んでくださって。「お礼を受けました」という、いままで見たことのない公式リリースを出してくれたり(笑)。自分たちでアピールすることに抵抗があっても、今回のように誰かから褒められたことは発信しやすかったりするので、すごくいいフレームの企画だなと思いました。
投稿を巨大に印刷し、リアルにお礼を届けた。
福島
きっかけとなった投稿主さんが、パーソルの投稿を引用して「このnoteを書いてくれた人、ありがとう!」とSNSに投稿してくれて、しかもピン留めしてくれていたんです。
お礼が自分たちやパーソルさんに向けられていて、「うれしい」が連鎖するプロジェクトだなと思いました。
藤井
SNS上を中心に反響が大きかったことを、誰よりもクライアントが喜んでくれたことが印象的でした。
「『提案する側』『提案を受ける側』という枠を超え、ひとつのチームとして企画をゼロから作り上げることができてよかったです」と。企画を構想する段階からプロセスを共有して進めていたので、自分ごととして強く意識してくださったのだと思います。この企画を通して、「私たち自身も「はたらく」って素敵だなと思える企画になった」ともおっしゃっていただきました。一緒に仕事をするパートナーとして、とてもありがたいことです。
佐藤
きっと、福島ちゃんがとなりで一生懸命汗をかいている様子を見て、クライアントもその熱量に触発されたんだと思います。クライアントと受発注の関係を超えて、ワンチームになって取り組めたのが良かったですよね。
INTERVIEW /04
福島
昨年SNSでのキャンペーンを通して、お礼をしたいエピソードってパッと思いつきにくいという気づきがありました。そこで今年はそういった声をSNSだけでなくリアルでも集める「迷子のお礼預かり所」という名前のカフェを展開します。
藤井
僕たちは探偵に引き続きカフェ運営の経験もなかったので、一度シミュレーションしておいたほうが良いのではと……まさかのクライアント社内で試験的にカフェを開くことになりました。
パーソル社内で実施したカフェイベント。
みんなのエピソードを絵馬のように飾ることで触発されて書きやすくなったり、
お礼が届く出会いも生まれたりなど、さまざまな発見があった。
福島
クライアントからも「福島さんいいこと思いつきました!」とノリノリでアイデアをいただいたり、まるで文化祭を一緒につくりあげているようでした。
佐藤
パーソル社内で企画の認知や理解も深まりましたし、社員のみなさんがほっこりうれしそうにされていて、インナーアクションとしても好評でした。そして、その出店経験を生かして9月には御岳山でもカフェを開きました。このカフェで集めたお礼を展示する企画も、今年の勤労感謝の日に実施する予定です。
御岳山にオープンした「迷子のお礼預かり所」
藤井
そうですね。みんなが働きやすい社会にしていきたいという想いがベースにあるので、どんどん文化になっていくといいなと思います。
佐藤
最近は「最短で最大の」と効率を求められる仕事や、スピードやスケールを重視される仕事も多く、それはそれでやりがいがあると思うのですが、今回のようなクライアントと自分たちでタッグを組んで一緒に地道に汗をかいて広げていく仕事もとても大事だし、楽しいです。
藤井
以前、会社の先輩に「いいアイデアってなんですか?」と聞いたら「世の中の悪いことを減らして、いいことを増やしているもの」って言われたんです。それ以来、仕事でずっと大事にしたいなと思っていることですね。
姉川
大人になったら勉強しなくなる、とよく言われますが、むしろ逆で。クライアントと、クライアントが向き合っているものを通して、世の中の解像度が上がることはこの業界のいいところだと思います。例えばこの企画でいうと子ども椅子の開発過程など、今まで知るはずがなかったものにどんどん出会えて、しかもそれが仕事になっているのが面白いです。
福島
学生のとき「とにかく世の中を良くしたい」という漠然とした想いを抱えてこの会社に入りました。入社して3年でまだそんな大層なことはわからないですが、少なくともクライアントと「この企画がある世界とない世界だったら、ある世界がいいよね」と信じられて、それをちゃんと自分も背負っているという実感が大事だと思っています。
あと、学生時代、電通は大企業だから風通しが悪くて若いうちは成長機会も少ないと聞いたことがあったのですが、そんなことないです。私が就活生時代こういったセリフは都合が良すぎてうそくさいと思っていたのですが本当です!年次関係なく自分でやってみようと思えば任せてもらえるし、その範囲は広げられると思っています。