ザ・プレミアム・モルツ「無言の父たち」
北 恭子
CREATIVE
クリエイティブディレクター。「無言の父たち」ではクリエイティブディレクションを担当。広告が広告に閉じずにPRに広がったり話題化したり、ちゃんと反応が返ってくる企画が好きです。この仕事を通して子育ての解像度がすごく上がりました。
三浦 慎也
CREATIVE
プランナー。サントリー関連の仕事を多く担当し、映像のプランニング、デジタルキャンペーン、PRまで幅広い領域を手がけています。6歳と3歳の子の父。「無言の父たち」では、当事者としてアイデアを広げる担当。お酒は外飲み派。
小西 慶
CREATIVE
プランナー。TVCMやデジタルの長尺映像、縦型動画など、映像のプランニングをメインに、他にも幅広く活動しています。3歳と0歳の子の父。「無言の父たち」では、当事者としてインサイト出しと映像のプランニングを担当。お酒は家飲み派。
保田 隆介
BUSINESS PRODUCE
ビジネスプロデューサー(BP)。デジタル領域をメインで担当し、その傍らで「無言の父たち」をはじめ制作業務を担当。サッカーが趣味で休日は練習に励んでいます。試合に勝った後の一杯は格別です。
INTERVIEW /01
犬タビュアー
北
ビールのCMは、どうしても「仕事」の後を描くものが多いですが、今回のターゲットである30代のリアルな生活を考えてみると、生活の中心には「子育て」があることも多いんじゃないかと気づいたんです。たいへんな毎日に、しあわせな時間を提供したいプレモルとして、そのリアリティに寄り添いたいなと思ったのがはじまりでした。
北
いえ、その逆でして、同じ会社で働いていても、同世代の同僚たちのプライベートの大部分を占めている「子育て」の体験について知る機会は少なくて。今回の件で、実際に子育てをしている方に話を聞いて本当に大変だなと共感したのと同時に、でも、子どもがいるっていいよねというパパたちの想いをコミカルに描きながら広告で共有することは新しいチャレンジかもしれないと感じて、この方向で企画を提案しようと決めました。
保田
最初はクライアントも驚いていましたね。「ビールの広告が、子育てに注目するんですか?」という反応でした。
北
私は子育て経験がないので、チームを構成するときに、育児を経験したことがある当事者を集めることから始めました。実際に育児をされている方々がこの広告を見たときに、共感はもちろん、嫌な気持ちにならない内容にすることがとても大事だと思ったので。
小西
僕には3歳と0歳の子どもがいます。でも、コロナ禍で育児を始めたこともあって、育児について他の人と話す機会が少なくて。だから、打ち合わせで子育てをしながら思うことを共有することも結構新鮮でした。
三浦
僕も6歳と3歳の2人の子どもがいます。当事者として体験していることを企画に投影して、世の中に受け入れられたことがすごくうれしかったです。
小西
企画当時は子どもが保育園に通い始めたばかりでした。新米パパの目線で企画できたことで、子育ての経験が報われた気がしましたね。打ち合わせの場で三浦さんと子育ての話ができるのも楽しいです。「パパ会」みたいな感じで。「子どもが朝5時くらいに起きて、とりあえず公園にベビーカーで連れていくと、同じように早起きしてしまったお父さんたちがいて。お父さん同士で、話さないけど連帯感があるんですよ」などなど。今回の動画のコアアイデアになったのも、そんな僕の実体験です。
保田
北さんは、このメンバー以外にも、育児経験のあるママをチームにアサインしていましたね。
北
父親の視点だけでなく、母親が見たときにどう感じるかという点も、各段階で細かくヒアリングしたいなと思ったんです。
幼稚園の送迎バス乗り場で子どもを見送った後しゃべらずに帰る父たち、デパートの椅子でうとうとしながら買い物が終わるのを待つ父たちなど、どこかぎこちない不器用な父たちだからこそ起こりうる、誰もが共感してしまうような育児あるあるを描く。新米パパ役を、3児の父でもある「あばれる君」が演じ、妻のゆかさんと夫婦で出演した。
INTERVIEW /02
北
企画のテーマが決まってからは、子育て世代の深い共感をつくるために、三浦さんと小西さんに、徹底的なヒアリングをしました。「どういう生活してるの?」「何に困ってるの?」「土日はどう過ごすの?」といった質問を通して、生の声をさぐったんです。
三浦
かなりリアルな話までぶっちゃけたよね(笑)。僕と小西くんがパパ目線の話をたくさん出しつつ、それが客観的に見て面白い状況なのか、リーダーの北さんに判断してもらうという流れで議論を積み重ねていきました。北さんの「世の中目線」のフィルターがあったのがありがたかったです。
北
父親として「これが言いたい」と主張するだけの広告にはしたくないなと思って。育児に関係のない人も面白がれたり、共感できたりするポイントを見つけることで、世の中の人に受け入れられやすい表現にしたかったんです。
北
広告として一方的に押し付けるのではなく、育児界隈“みんなの感情”として受け入れてもらいたくて、インフルエンサーの方々に協力をお願いしました。
三浦
インフルエンサーの方には、動画を拡散してもらうだけはなく、一緒に動画のアイデアも出していただいています。制作者として「こんな広告を一緒につくりました!」と言ってくれる方が、フォロワーの皆さんは見たくなるし、人に伝えたくなるだろうなと思ったんです。
小西
僕自身の実体験から生まれた企画ということもあり、とにかくこだわったのはリアリティでした。たとえばキャスティング面でも、父役のあばれる君さんの妻役として、実生活のパートナーであるゆかさんに出演していただいています。
保田
アルコール飲料のCMは、自主規制でこどもの出演ができないんです。だから、「子育て」をテーマにしたCMの制作は、実はとても難しくて。画面の中にこどもが映らなくても、子育てのリアリティを描けるように、制作スタッフのみなさんとたくさんの工夫を凝らしています。
北
ここまで細部にこだわって実現してくれるメンバーにはすごく感謝しています。通常であれば「それはできないよ」と言われてしまうところを、「やろう!」と言ってくれたので。
保田
僕は、制作を担当するBPとしては、駆け出しの頃だったので、「どの仕事もここまで細かくやっているものだ」って思っていたんです(笑)。
北
そうだったね。それもラッキーでした(笑)。
INTERVIEW /03
保田
想像をはるかに超えたものでした。「新CM公開」という単なるエンタメニュースとしての反響を超えて、世の中の人に自分ごととして受け取ってもらえている手ごたえがありました。
北
認知の観点でいうと、デジタル広告でありながら、想定を大きく上回る認知度を得られる結果になりました。クライアントが持っている広告の成功基準も大きく上回り、ブランドとしても新しい取り組みだったと評価されています。
三浦
個人的には、周りの人からの反響も多い仕事でした。ママ友からは「これ、三浦さんのお父さんのやつですか」って連絡が来ましたし、一番びっくりしたのは、いつもの美容師さんに「これ三浦くんがやったやつ?」って言われたことですね。
北
メディアからは、施策の取材に加えて「父親の育児の変化」「なぜ父親同士は無言になってしまうのか」といった、父親の育児にまつわるトピックを含めて特集にしたいとお声がけをいただきました。世の中的に父親の育児環境が変化しつつあるタイミングと、今回の動画がうまくマッチしたのだと思います。
北
そうですね。同じチームで、2024年2月に「飲みに誘うのムズすぎ問題」、3月に「気づかい仕事人」、6月には「はじめての父の日」というウェブCMを制作しました。30〜40代に共感してほしいという想いは変わらず、子育てや仕事において、どの文脈から「たいへんな毎日」を切り取るのかを変えながらつくっています。
飲みに誘うのムズすぎ問題
後輩を飲みに誘いたくても誘うことができない“飲みに誘うのムズすぎ問題”に悩む先輩の心の葛藤を描く。
気づかい仕事人
電話帳には必ず「さん」付きで登録したり、エレベーターは全員が出るまで「開」ボタンを押し続けたりなど、陰で周囲に気を配る“気づかい仕事人”の日常を描く。
はじめての父の日
声優の梶裕貴さんらが出演。父親が、“はじめての父の日”に家族から愛情やねぎらいを受け、父の日が自分の日になったことを実感する様子を描く。
三浦
それも小西くんです。
一同
(笑)
小西
僕はそういうことを考えがちなんです。後輩と電車に乗ってるときに、きっと彼はこの後予定を入れていないだろうけど、もし誘って予定があると言われたら気まずいなと思ったことがあって。「もうすぐ自分の駅に着くな、どうしようかな」って悩んでいたら、後輩の方から飲みに誘ってくれたことがうれしかった、という体験をみんなと共有して、アイデアを形にしていきました。
INTERVIEW /04
三浦
僕は広告の仕事を「生活の編集作業」だと捉えています。日々の生活で感じる「こういうことあるな」という気づきを、与えられたテーマに沿ってつなげていく。そうすることで、新しい自分の側面を発見したり、自分の中から新しいものを引き出せたりする可能性があると思うんです。
北
私は学生のとき、「社会の課題と企業の課題を、アイデアでつなぐ人」になりたいと思っていました。実際に電通に入社してからも、同じ想いを持った人がたくさんいると感じています。そして、この仕事を通して、目の前の人に向き合うだけではなく、「世の中目線」で考えることが増えました。結果的に、社会の課題をみんなが受け取りやすい形でアウトプットできる力がついたのかなと思います。
保田
多様なメディアも含めて、さまざまな伝え方がある時代ですが、広告のスキルを使うからこそ共有できる感情もありますよね。「無言の父たち」では、子育てのインサイトを発信するだけでなく、ザ・プレミアム・モルツというブランドと結びつけることで、結果的に多くの人に届けることができました。こんな景色が見られるのは、広告ならではだと感じましたね。
小西
広告制作に限らず、個人的な思いと、仕事をつなげられる瞬間は楽しいですよね。僕が入社を決めた理由は、「CMが好きだな」という直感的なものだったんです。でも、実際に入社してみると、広告以外にもいろいろなことにチャレンジできる環境があることに気づきました。今は事業開発の仕事に関わることも多いのですが、CMをつくるときと同じように、自分のプライベートで感じたことを大事にしています。
北
逆に私は、仕事を通して、プライベートでも商品の意味付けを深めて考えるようになりましたね。ビールを「人生をハイライトしてくれるビール」と捉えられるようになったり、ビールを飲む瞬間を幸せなことをたくさんかみしめられる一瞬だと思えたり。
三浦
そう思います。この業界は刺激が多くて、常に新しいものを求められる特殊な環境です。だからこそ、自分の感覚が、やっぱり大事だなって。
保田
いつも新しいことにチャレンジできるのは楽しいですよね。世の中に新しいものを発信できたらそれに越したことはありませんが、それ以上に自分自身の拡張という意味で、すごく楽しい職場だと思っています。
北
わかります。大変なことももちろんあるけど、そこが一番面白いところですよね。