セイバン「ランドセル選びドキュメンタリー」
川村 太志
BUSINESS PRODUCE
ビジネスプロデューサー。フットサルと飲み会が好き。息子3人と「たたかいごっこ」を日夜繰り広げている。MBTIはESFP〈エンターテイナー〉。
島 陽子
STRATEGY
ストラテジックプランナー。電通ママラボに所属し、母親・女性のインサイトからのプランニング実績も豊富。男女の双子の母。MBTIはINTP〈論理学者〉。
佐藤 朝子
CREATIVE
クリエイティブディレクター/コピーライター。みんなからは親しみを込めて「朝子さん」と呼ばれる。社会人劇団で舞台俳優としても活動。MBTIはENFJ〈主人公〉。
福居 亜耶
CREATIVE
CMプランナー / コピーライター。電通ダイバーシティ・ラボにも所属。パグ、保護猫3匹、プレコ6匹、小エビ約120匹とともに暮らす。MBTIはINFJ〈提唱者〉。
石川 平
CREATIVE
アートディレクター。北海道で産声を上げ、幼少期の10年間をウィーンで過ごす。漫画が好きで、最近はキャンプにハマっている。MBTIはINTP〈論理学者〉。
電通ママラボ:
「ママが笑えば、日本も笑う。ママが笑えば、世界も笑う。」をモットーに、ママと子どもの本心と真摯(しんし)に向き合い、課題解決策を提案するワークタンク。ママ・パパ・子ども・家族の向かう先を予測し、リアルなインサイトでビジネスや社会の課題を解決するソリューションを提供している。
https://www.dentsu.co.jp/labo/mamalabo/index.html
電通ダイバーシティ・ラボ:
あらゆる場所に存在する「多様性」についての課題と向き合い、企業や社会の取り組みを支援する専門チーム。電通グループ横断型の組織として、障害、ジェンダー(性)、多文化、ジェネレーション(年齢・世代)など幅広い領域のプロフェッショナルが集う。
https://www.dentsu.co.jp/sustainability/sdgs_action/thumb05.html
※電通には、さまざまなビジネステーマや社会課題に取り組むチームが多数あります。
INTERVIEW /01
犬タビュアー
川村
クライアントのセイバンさんは、国内シェアNo.1のランドセルメーカーです。ランドセルを選ぶ保護者の気持ちに寄り添ったコミュニケーションをしたいというクライアントの想いを受けて、チームで議論しました。
(※シェアNo.1について:https://www.seiban.co.jp/lp/no1/)
島
小学生になる子どもを持つ保護者たちのランドセル選びの意識を、クライアントと一緒に行った調査やママラボ実施の教育意識調査から読み解いたところ、「子どもの意見を重視し、子どもの選択を尊重したい」と考える人が非常に多いことがわかりました。一方で、ランドセルを購入したとき、セイバンさんが実施したアンケートよると、子どもに自由に選ばせた親はたったの23%というデータも。つまり、子どもの意思や価値観を大事にしたいという想いはあるものの、実際には保護者主導で決めてしまうケースがほとんどで、ランドセル選びの理想と現実には大きなギャップがあることがわかったんです。
石川
ランドセルは、ここ25年ほどでカラーやデザインの多様化が進んでいます。子どもがよろこびそうなカラーやデザインのものも増えましたが、「6年間使えるデザインか」「目立ちすぎる色は避けたい」などの保護者の思惑によって、真の意味で子どもの選択肢が広がっていると言える状況ではなかったと思います。
福居
保護者が主導する「ラン活」の過熱ぶりに対して、SNSなどでチラホラと疑問の声も上がり始めている時期でもありましたね。
佐藤
もちろん、ランドセル選びにおいて、機能性や安全性を重視する大人の目線は大事です。その点、セイバンのランドセルは、機能性や安全性はバッチリ。だからセイバンこそが、「保護者が安心できる形で、子どもの選択を尊重する理想のランドセル選びをかなえる」存在になれるのではと考えました。
島
子どもたちにとっても、「自分で自由に選んだ」という感覚は、自信や成長につながる大切なことです。
クライアントとの調査やママラボの調査から、
インサイトを導いた(提案書より抜粋)
キャッチコピーは佐藤、
ステートメントは福居が手がけた
INTERVIEW /02
佐藤
ウェブムービーは、電通が自主提案したものです。テレビCMではランドセル選びの理想と現実に葛藤する保護者に寄り添うストーリーを描いたのですが、それとは別に「本当に子どもたちに選ばせるとはどういうことなのか」をもっと掘り下げて提示したいと思いました。
福居
ムービーの企画をするときに、以前ラジオで聞いたことを思い出したんです。「保護者が子どもに指図して言うことを聞かせるのは良くないけれど、それよりも良くないのは、保護者が直接言わずに態度でそう仕向けることだ」というようなことでした。なぜそれが最も良くないかと言うと、子どもが「保護者が望んだからこうしたのに」と主張したときに、保護者が「私は言ってない、あなたがそれを選んだんでしょ」と逃げ道をなくしてしまうからだそうです。逃げ道がなくなることの悲しさもさることながら、子どもは何かを選ぶとき、親の態度をよく見ているんだなということにも気づかされました。でも、子どもの頃を振り返ると、思い当たることもあるので、気づいたというより、思い出したという方が正確かもしれません。そんなことから企画したのが、このムービーです。ドキュメンタリーなので実際に撮影するまでどうなるかわからなかったのですが、結果はムービーをご覧いただいた通りです。ぜひ見てみてください。
佐藤
このムービーは、エンディングがある物語ではありません。親子のありのままの反応を、ドキュメンタリーという形でそのまま見せています。だからこそ見ている人が、親としての自分や、子どもの頃の自分に照らし合わせて、なにか言いたくなったり、議論したくなったり、シェアしたくなったり、そんな反応を呼び起こせたのではと思います。
協力会社のスタッフとともに、一致団結してムービーを制作しました
川村
「子どもとの関係を改めて考え直しました」というコメントが多く寄せられました。
島
ムービー内ではランドセルを選んでいるだけで、親子の関係性の話は全然していないんですよね。それなのに、見た人が深いところまで読み取ってくれて、「ランドセル選び」が「親子関係を再考するきっかけ」になったということは、かなり本質的なことを世の中に突きつけたのかもしれません。一周回って「やっぱりランドセルは子どもに選ばせるのが大事だよね」となったのもよかったなと思います。
佐藤
親の顔色を見るって、私たちが子どもの頃にもやっていたことだと思うんですね。でも、親になって忘れてしまったり、子どもがすごく上手に振る舞うから気づけなかったり。自分たちで企画制作しておいてなんですが、一人の親として見て、かなり痛いところを突かれました。グサッときました。
福居
こども家庭庁からは「子どもの意見を聴き、尊重するという理念と完全一致している」とフィルムの二次使用のオファーがあり、日本各地の子育て支援イベントで上映されています。ランドセル選びを超えて、子どもの自分らしい選択を尊重することに少しでも貢献できているならうれしいです。
佐藤
うーん……世の中になかったわけじゃない。私たちの仕事は、あるのにないとされているものを掘り起こす感覚に近いです。だから「全く存在しなかった価値観を生み出しました」とは言えない気がして。自分たちにも見えていなかったり、忘れたりしていたけど「ある」とわかっているものを一生懸命掘り起こして、世の中に提示したものかなと思います。
INTERVIEW /03
川村
今回は「コミュニケーション全体をアートディレクションしたい」というクライアントからのご相談もあり、アートディレクターの石川くんにお願いして、クライアントの全制作物のデザイン統括を担当してもらいました。アートディレクターの新しいビジネスモデルに挑戦してくれましたね。
石川
通常、広告会社のアートディレクターは、キービジュアル(さまざまな媒体に展開されるための主たるイメージ画像)などをメインに企画制作しています。キービジュアルを展開する分には、デザインやメッセージが統一できるのですが、セイバンさんのような複数の実店舗を持つメーカーの場合は、店頭の見え方や手元に届くカタログなどのお客さんとの接点もより多く、デザインやメッセージを統一しきれないこともあります。クライアントも同じ課題を感じていたので、全制作物のデザイン統括を担当させていただくのは、とてもいい機会でした。特に、子どもの自分らしい選択を尊重するという今回のメッセージは、多様性の尊重にも直結します。だからこそ、細部まで気を配り、例えば「カタログに載っている女の子と男の子の服装はこれで本当に適切なんだろうか?」といったことも丁寧にチェックしました。
福居
ランドセルは、ひと昔前まで「男の子は黒、女の子は赤」というイメージが付きものだったこともあって、ジェンダー課題にも関わっている商品だもんね。すぐにすべてを変えることができなくても、セイバンさんのお仕事を通じて、子どもの選択に関わる固定観念やバイアスを少しでもなくしていけるといいね。
石川
そうですね。「少し良い方に変わってきたかも」と個人的に思うことがあっても、実際は社会全体でみるとまだまだ変わっていないことも。これだけ多様性の重要さが高まっているのに、まだまだ進んでいないし、それなのにもう聞き飽きたみたいな空気感が生まれたり。何かひとつですべてが解決するわけではない。少しずつアクションをつなげて重ねていくことでしか、社会は変わっていかないものだと思います。世間の反応を見ると、今回のお仕事はその一助になっていたのではないかなと感じて、うれしかったです。
セイバンのウェブサイトでは、これまで「男の子用・女の子用」だった表記が「男の子に人気・女の子に人気」に。
ランドセル販売の現場も少しずつ変化している
INTERVIEW /04
川村
セイバンさんだけでなく、どのクライアントとも距離感が近いですし、スピード感を持ってお仕事が進んでいくことが多いです。関西の企業ならではだと思います。結果的に、若手の頃から自分で仕事を回していく機会に恵まれるので、成長スピードが速いと思います。
佐藤
クライアントにはオーナー企業も多いので、決定者と議論できる機会が多く、若い頃からかなり経験を積めると思います。また、お互いを気にかけてコミュニケーションを取ることで、より良い仕事ができるという意識がオフィス全体に浸透している印象があります。みんな、他の部署の人たちとも積極的に交流するんです。会話を交わすことに対してとても前向きで、人を思いやる雰囲気があります。
福居
「先輩にはきつく当たり、後輩にはやさしく接する」という文化があると思います。これ、私が勝手に言っているんじゃないですよ! 実際に先輩からそう教えを乞うたんです。先輩のやさしさと懐の深さが、関西のあたたかさなのかなと。私もそろそろ、先輩に歯向かうだけでなく、後輩にやさしくしたいと思います。やさしい先輩にたくさん助けられたので……。
石川
オフィスのサイズ感が、大きすぎず小さすぎず、ちょうどいいんです。自然と人との距離が縮まるし、なんとなくみんながどんな仕事をしているかもわかります。勤務のリモート化が進み、少し変わってきている部分もありますが、それでも比較的お互いの顔が見やすい分、頑張っていると声をかけられたりすることもあって、それがいいところだなと思います。
島
1年目から「これはあなたの仕事だから」って任せてもらえる。でも、もちろん手厚くサポートもしてくれる。安心しながらも、すごく頑張れるスタイルだなと思います。
一同
大阪を楽しみながら、これからもいいお仕事をしていきたいです!!!!!