スマドリバー渋谷 | 本音に寄り添う戦略で、新しい市場と、よりよい社会をつくる

CHALLENGE

PROJECT

スマドリバー渋谷

本音に寄り添う戦略で、新しい市場と、
よりよい社会をつくる

2022年7月。渋谷のセンター街に誕生したバーが話題を呼んだ。「SUMADORI-BAR SHIBUYA(スマドリバー渋谷)」。そこは、お酒を飲めない人が楽しめるバー。アサヒビールが推進する「スマートドリンキング(スマドリ)」を体験・体感する場としてオープン。ノンアルコール・微アルコールドリンクを楽しめる新感覚のバーとして、若者を中心に人気を博している。スマドリバー開店には、どんな背景があったのか。スマドリプロジェクトの中心メンバーである、佐藤、田村、岸本に話を聞いた。

飲める人も飲めない人も
楽しめる場をつくりたい。

INTERVIEW

  • 佐藤 真木
    佐藤 真木
    STRATEGIC PLANNING
  • 田村 直人
    田村 直人
    CREATIVE
  • 岸本 かほり
    岸本 かほり
    STRATEGIC PLANNING
INTERVIEW /01

お酒の飲み方の多様性を、クライアントと一緒につくる

━━ 「SUMADORI-BAR SHIBUYA(スマドリバー渋谷)」は、アサヒビールと電通デジタルの合弁会社のプロジェクトだそうですね。どのようにして、はじまったのですか?

佐藤佐藤

2020年9月、アサヒビールに“新価値創造推進部”という部署ができたのがきっかけです。世界的にアルコール市場が伸び悩んでいますし、日本でもお酒を飲まない成人が約4000万人もいる。そんな状況で、アサヒビールというお酒の会社は、どんな価値を提供することができるのか。新しいマーケットを掘り起こすことがクライアントのミッションになっていました。

岸本岸本

そうして生まれたコンセプトが、「スマートドリンキング(スマドリ)」です。一人一人が、自分の体質や気分、シーンに合わせて、適切なお酒やノンアルコールドリンクをスマートに選択できる飲み方のことです。しかし、コンセプトがあっても具体的な商品やサービスがないと、世の中は変わらない。そのため、スマドリの象徴として、飲めない人が心から楽しめるバー「スマドリバー」をつくることになりました。

佐藤佐藤

そのバーの構想をカタチにするために、2021年にアサヒビールと電通デジタルとで、飲めない人向けのマーケティングをする合弁会社を設立したというわけです。

岸本岸本

でも、そこで問題が発生したんですよね(笑)。

田村田村

「飲み方の多様性」をキーワードに議論していたんですが、アサヒビールの人も、電通デジタルの人もみんなお酒好きで、実はお酒が飲めない人の気持ちがあまりわかってなかったんです(笑)。そこで、「お酒が飲めないメンバーを電通から呼ぼう!」となって集められたのが、このチームだったというわけです(笑)。

━━ このチームは全員、お酒を飲まないんですか?

3人:飲みません!

━━ アサヒビールのみなさんと、意見のずれはありませんでしたか?

岸本岸本

意見のずれというよりは、ディスカッションの中で「え?飲めない人ってそうなの?知らなかった!」と盛り上がることがよくありました。「アルコールがないと盛り上がらないよね」と思っているクライアントに対して、飲めない人の視点でツッコミを入れることができました。クライアントと電通、という関係ではなく、飲める人と飲めない人、という関係でフラットに議論ができたんです。だからこそクライアントとチームになれたのかなと思います。

田村田村

クライアントが僕たちに、「飲めない人の気持ちがわからないので、任せます」と言ってくれたことも大きかったです。飲めない人の意見を、「わからない」と一蹴せずに柔軟に受け入れてくれたことで、多様性のあるチームが生まれ、プロジェクトが一気に動き出したと思います。

  • スマドリバー渋谷イメージムービーのワンシーン

  • 飲めない主人公がバーに向かう、ココロの高揚感を表現している

INTERVIEW /02

徹底的に、飲めない人の気持ちに寄り添う

岸本岸本

実は私、もともとはお酒を飲んでいたんです。でも、妊娠・出産を経て、お酒を飲まなくなって。「若年層の酒離れ」といわれることが多いですが、ライフスタイルに変化があったから飲まなくなったり、体質的には飲めるけど健康のためにお酒を控えたり、「飲めない」にもいろいろな理由がありますよね。

佐藤佐藤

だから、プロジェクトを進めていくうえで、まず社内の飲めない人たちのインサイトを徹底的に調査しました。調査結果を「飲めない人ならではのインサイト」にまとめる中で、飲めない人は「飲める人ばかり楽しんでずるい!」という不満を抱いていることがわかったんです。例えば、飲める人にはたくさんの選択肢があるのに、飲めない人には極端に選択肢が少ないとか、飲める人にとっては低い度数の3%でも、飲めない人にとっては、気持ち悪くなるくらい高く感じる度数だったり、というような不満です。

岸本岸本

佐藤さん、田村さんをはじめ、お酒が飲めない人は、アルコール市場やマーケティングにめちゃくちゃ不満がたまっているんですね。もはやイライラに近い感情で。体質的にはアルコールが飲める私には、正直驚きでした。

田村田村

それが、飲める側の立場であるクライアントにとっても大きな発見になりましたよね。「不満」があるとしたら、「その不満を解決する空間とは?」「商品とは?」と僕たちクリエイティブチームが具体化しやすくなりました。「飲めない人ならではのインサイト」は、クライアントにとってもバイブルのようなものになったし、商品設計や空間設計に行き詰まったときに立ち返る指針にもなりました。

━━ こうした調査によって、課題が明らかになってきたんですね。

岸本岸本

調べれば調べるほど、これまで飲めない人の声がどれだけ軽視されてきたか、ありありと浮かび上がってきました。逆にいえば、スマドリバーがその問題を解決することができれば、新しい市場をつくるチャンスが生まれると思いました。

田村田村

彼らが本当に行きたい!と思えるスマドリバーのイメージを具体的に決めていきました。例えば、メニューは、お酒のアルコール度数を0.5%〜3%で選べるようにして、ドリンクの種類は100種類以上つくることにしました。飲めない人はふだんドリンクを選ぶ楽しみを抑圧されているので、ここでは逆に、めちゃくちゃ選べることを大事にしたんです。

佐藤佐藤

これはお酒が飲めない人にはわかると思うんですが、普段はメニューの最後からドリンクを選んでるんです。だいたいのお店ではまず、アルコールメニューがずらーっと並んでいて、最後におまけみたいな感じでソフトドリンクが書かれているから(笑)。でも、このお店はメニューを開いたら、まずノンアルメニューがずらーっと並んでいる。そういった細かいところで、飲めないことを後ろめたく思う人たちの気持ちに寄り添いました。

━━ 確かに、言われてみれば……。意識したことがなかったかもしれません。

田村田村

外観・内装も、周りの飲めない人にインタビューをして決めていきました。お店の中が見えないと不安で入りにくいという心理から、入り口をガラス張りにしたり。ライティングも、明るすぎると雰囲気がなくてカフェみたいになってしまうし、暗すぎると怖くて入れないということで、色や明るさを細かく計算しました。

佐藤佐藤

実装の段階では、システム構築は電通デジタルが、メニューの施策は電通ライブ(※)が担当したりと、国内電通グループでもワンチームになって進めていきました。
※国内最大規模のイベント・スペース専門会社

━━ 反響はどうでしたか。

岸本岸本

「飲めない人のバー」というキャッチーさで、ネットを中心に話題が広がりました。お酒に弱い人はもちろん、飲めるけど0.5%を飲んで新しいお酒の楽しみ方を見つけたという人もいて、うれしかったですね。飲める人と飲めない人が、度数の違うお酒を一緒に楽しむことができて新鮮だったという声もありました。

  • スマドリバー渋谷グランドメニューより抜粋
    0%、0.5%、3%からアルコール度数が選べるドリンクを100種類以上ご用意しています

  • スマドリバー渋谷の外観
    入り口はガラス張りで中がよく見え、安心して入れる設計になっている

INTERVIEW /03

飲めても飲めなくても、みんな飲みトモ

田村田村

もともと「飲めない人のバー」というコンセプトではありましたが、飲めない人のため“だけ”のものに閉じたくないとも考えていて。というのも、飲めない人って、「飲めないからって特別扱いされたくない」「主役になりたいわけではない」という繊細な気持ちがあるんです(笑)。そこで、飲めない人も飲める人も楽しめる、まさにスマドリが目指す世界の象徴となるようなバーにしたいという狙いで「飲めても飲めなくても、みんな飲みトモ」というメッセージを掲げました。結果的に、その通りに人が集まってきてくれたのはうれしかったです。

岸本岸本

スマドリは「飲み方の多様性」の実現を目指しています。飲める人と飲めない人の間の分断をなくすことがミッションなんですね。だから、スマドリバーには、分断をなくす工夫をあちこちに入れています。例えば、「マーブリング レイン」という商品。わたあめがのっていて、炭酸をかけることでわたあめが溶けていく様子が、動画映えするので大人気で。飲める人も飲めない人も、たとえアルコールが入ってなくても一緒にテンションを上げて楽しむことができます。

田村田村

度数の違いを飲み比べる「グラデ飲み」という飲み方も人気です。同じお酒なのに、度数が違うと体験が変わるのが新鮮だという声をいただいています。スマドリバーは、アルコールに頼らなくてもちゃんと気分の上がる場所を目指しているんですね。

佐藤佐藤

アルコール度数に頼らずテンションを上げることができるというのは、アサヒビールにとっても発見だったと思います。度数の強いお酒で盛り上がるのも楽しいと思いますが、そうでなくてもみんなが楽しむことはできるんですよね。今後も、あの手この手で気分を上げられる商品や体験設計を考え続けていきたいです。

━━ 「スマドリ」の今後の展望はありますか?

佐藤佐藤

スマドリバーに限らず、いろんな方向性でスマドリビジネスを広げていこうという流れが生まれ、電通との協業も進んでいます。それによって、アサヒビールにも変化が生まれているようです。今までアサヒビールが出していたノンアル商品は、飲める人が「健康のために」飲まない日を狙ったものが多かったのですが、そうではない、飲めない人の視点から考える商品開発もはじまっています。

  • スマドリバー渋谷のシグニチャードリンク「マーブリング レイン」

  • わたあめに炭酸を注ぐとまるで雨のように溶けていき、
    美しいマーブル模様のドリンクになる

INTERVIEW /04

「飲めないこと」が、武器になる

━━ 最後に、学生のみなさんに伝えたいことはありますか?

田村田村

電通は、お酒が飲めなくても大丈夫な会社です!!

一同:(笑)

田村田村

この会社、いまだに飲めないとやっていけないんじゃないかって思われてるし……(笑)。でも、全然そんなことはなくて、むしろ飲めないことが生かせる仕事もあるってスゴくないですか?

佐藤佐藤

弱みとかコンプレックスに感じていることも、個性になりますよね。また、今回のように若手の意見が必要になるプロジェクトも多いですし、どんな人でも活躍できる場所があって、多様性を大切にしている会社だと思います。自分たちにとって心地よい未来をつくりたい、というモチベーションと仕事が直結できるので、前のめりになって仕事と向き合えますよ。

岸本岸本

私は電通ダイバーシティ・ラボ(※)に所属していて、普段から社会的マイノリティの直面する問題に向き合っていますが、各業界にもその市場におけるマイノリティがいるんだというのが新たな気づきでした。いわゆるマイノリティと聞いて思い浮かぶのは、障がいのある人やLGBTQ+、外国人といった方々だと思います。でも、アルコール業界において、飲めないことにどこかでプレッシャーを感じて苦しい思いをしている人々がいるように、どの業界にも生きづらさを感じている人は存在すると思います。こうして、今まで声を上げられなかった人たちに目を向けて新しく市場を開拓することで、少しずつですが社会問題を解決できたり、よりよい未来をつくっていけたりすることが、電通のおもしろさではないかなと思います。今回、社会・経済面など驚くほどいろんなメディアに取り上げられて、反響がありました。電通の仕事では、クライアントと一緒に社会の価値観をいい意味で揺さぶるようなことができてしまう、そこにやりがいを感じます。※2011年に創設。ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン視点で、自社と顧客の双方に対するソリューションの開発・提供を推進する電通の組織横断型専門タスクフォース。「ジェンダー」「障がい」「多文化」「ジェネレーション」の4つの主要テーマを中心に、20ほどの独自プロジェクトを約100名のメンバーで推進している。独自の調査・研究および外部の専門家・研究機関・当事者団体などとの協働を通じて、各種ソリューションの開発・提供、情報発信を行っている。https://www.dentsu.co.jp/sustainability/sdgs_action/thumb05.html