2020年。新型コロナウイルス感染症の影響で全国的に観光客が減少。佐賀県も例外ではなく、おいしい食材が旬を迎えているにもかかわらず、県産品の売り上げが低下するなど生産者や飲食店が大きな打撃を受けていた。そこで生まれたのが、『23時の佐賀飯アニメ』。アニメーターや声優と共に、県の食材の魅力を伝える「佐賀飯アニメ」を制作し、ユーザーが小腹をすかせている23時を狙って、Twitterに10日間連続で投下した。さらに、実際に食材を買えるECサイトに誘導することで、売り上げアップにも貢献。広告領域で培った力を、地元のために生かすというチャレンジは、藤吉・姉川・福井・辰野・熊谷を中心とするチームによって実現した。
━━ 『23時の佐賀飯アニメ』は、佐賀県に対する愛が溢(あふ)れていますね。藤吉さんと姉川さんは佐賀出身とのことですが、どのような想いでこの仕事に関わりましたか?
佐賀出身の人って、出身地を聞かれたら「九州出身」と答えることも少なくないんですよ。多くの人が「佐賀出身と伝えてもどうせ話が広がらないし・・・」と思っていたり、僕自身も大人になるまでは佐賀出身であることに誇りに持てていなかったかもしれません。でも、よくよく考えたら、佐賀の人が「佐賀って何もないよ」と言っていたら、周りも「ああそうか、じゃあ佐賀には行く必要はないね」となってしまう。小さなことでもいいからそういう状況を少しでも変えたいと考えるようになったのが佐賀県の仕事に関わるようになったきっかけでした。
僕は就職して、「佐賀出身です」と先輩に伝えたら、「いいよね、“四国”」と返されて(苦笑)。佐賀の話ってこんなに盛り上がらないのかと感じる一方で、魅力ある部分も確かにあって。佐賀に限らず、価値があるのに伝わっていないものが日本中の地域にあるとしたら、それはコミュニケーションで解決できることじゃないかという想いがありました。
━━ 去年はコロナ禍が全国に広がりました。その影響はありましたか?
佐賀に住む両親や兄弟に連絡すると、家族はもちろんのこと、飲食店をやっている同級生や農業をしている知人とか身近な人たちにいろんな困りごとが発生していて、自分自身は東京に住んでいても、それを解決してあげられることが何かないかと考えました。
━━ 『23時の佐賀飯アニメ』は、見ているだけでおなかがすくアニメになっていますね。「アニメ」というアイデアは、どこから生まれたんですか?
じつは、僕と福井は、二人ともアニメ好きで、普段から仲が良くて。「アニメで描かれている食のシーンって、おいしそうだよね」「いつかアニメの食のシーンを集めた動画をつくりたいね」と、以前から話していたんです。
手書きのアニメは、人間が描くものだから、実写よりももっと人間の感覚に近い部分で「美味しそう」に迫れる可能性があるんじゃないかと思っていて。本物じゃないけれど、真実に近いと言いますか。
━━ 二人の趣味から生まれたアイデアなんですね。
はい。佐賀の食に対して、ちゃんとポジティブなイメージを持ってもらいたいと思ったからこそ生まれたアイデアだと思います。コロナ禍なので、「食材が余っています。このままでは捨てなければなりません」とネガティブに訴える手法もありましたが、そうはしたくなかった。一時的には売れても、佐賀の魅力が高まることはないからです。
大変な時期だからこそ、「かわいそう」ではなく、「おいしそう」と思ってもらうことにこだわりました。「おいしそう」と思ってもらえれば、それはコロナ後もずっと残る佐賀県の資産になりますから。
━━ 参加しているアニメーターや声優も豪華ですが、どうやって実現したんでしょう?
ただのアニメの仕事だったら、依頼しても仕事を受けていただけなかったかもしれないなと思います。「“佐賀飯は本当においしい”という資産を残すために、歴史に残るような食のアニメを作りたいんです」という想いに共感していただけたことで、実現できました。
━━ 今回の施策は、バズを起こして話題になっただけではなく、佐賀県の食を「お取り寄せ」できるサイトに誘導して、実際の購買にもつなげていますね。
はい、お取り寄せにつながりやすい時間帯を狙って、小腹がすく深夜、23時に動画を公開しているんです。話題になるだけでは、佐賀のためにはなりませんから。
じつは私、数年前、地方のPR動画がはやっていた時期に、バズを目的とした動画をつくったことがあるんです。でも、一時的な話題化で終わってしまって……。
ただの「広告」で終わってしまうと、地元の資産にはなりづらいですよね……。
だから、この仕事では、無理して変なことをするより、佐賀県が持っている魅力を、もっとよく見せることに集中した方がいいなって。私は、アートディレクターなので、佐賀らしい食の魅力を最大限に引き出すアニメーションづくりを心がけました。
━━ とてもおいしそうだなと思いました。このリアルさは、どこから来ているのでしょうか?
地方の仕事では、その土地の風土とか文化をきちんと知って、その土地のことを好きになることが大前提だと思います。僕と姉川くんは佐賀のことを知っていますが、他のスタッフは知らない。だから、アニメーターを含めたメンバーには、実際に佐賀に行って、現地を体験してもらいました。
佐賀の食がなぜおいしいのか、例えば、北方ちゃんぽんは、普通のちゃんぽんと何が違うのか、どんな特徴のある食材が、どの季節に使われていて、どんな調理法がその味を引き出しているのか、そこまで深く取材しました。僕は初めての佐賀だったのですが、今回のプロジェクトで10年分くらい味わったかもしれないです(笑)。
私も、東京育ちなので、佐賀に行くのは初めてでした。取材を兼ねて実際に食べた佐賀牛はとにかくおいしくて。これを現地に行けない人にも食べてみてほしい、という気持ちが高まりました。
━━ 「知らない佐賀がたくさんありました」「おなかの鳴る10日間でした」「行けるようになったら、ぜひ足を運びたいです」など、Twitterでも好意的な意見が目立ちますね。
それは、辰野さんのおかげですね。
私は普段から、推しカルチャーなどに興味があって、その知見をこの施策にも生かしています。アニメ・声優好きや佐賀出身の人といった、熱量の高いファンが反応してくれるようなPRを目指しました。
━━ 結果はどうでしたか?
Twitterでも、全国の皆さんから意見や反応をいただけたのが良かったです。Twitterのフォロワーから「こうすればもっと盛り上がるのに」といった前向きな意見も出てきたので、そうした意見はリアルタイムに反映していきました。ライブ感のあるやりとりが生まれた方が、やっぱり、盛り上がりますよね。こちらから一方的なメッセージを送って終わり、ではなく、SNSらしい双方向のコミュニケーションができたのかなと思います。
━━ 施策を届けるみなさんが楽しんでいる様子が伝わっているのかもしれませんね。
今回つくったコンテンツは、販売店の店頭で流されていたり、スーパーのチラシに使われていたり、佐賀県に関係するさまざまな方に使っていただけている実感があって、うれしいですね。
私も、佐賀を第二の故郷のように感じています。
課題解決というと真面目な顔つきになりがちですが、つくっている側はもちろん、このコンテンツをみた人にとっても、楽しいという気持ちが先にあって、それが自然に課題解決になっているというのが大切だなと思いました。
このアニメはキャンペーンの間だけではなく、今後佐賀の人たちが一生使えるコンテンツになっています。一時的な盛り上がりやニュースになるだけではなく、ずっとストックされていくようなコミュニケーションを今後もやっていきたいですね。